2026年9月13日 ・ 源泉徴収
外注費を払っても、源泉徴収しなくてよい人がいる
フリーランスのデザイナーやライター、税理士に報酬を払うとき「10%を引いて払う」と聞いたことがあるかもしれません。ただし、あなたが給与を誰にも払っていない個人事業主なら、その天引き自体が不要なことがあります。知らずに引かないとペナルティの対象になりますが、義務がないのに引くのも相手と自分の手間を増やすだけです。
そもそも、義務がない人がいる
源泉徴収義務があるのは、給与や、法が定める報酬・料金を支払う人です。法人はもちろん、個人事業主も含まれます。ただし例外が1つだけあります。
所得税法はこう定めています。報酬・料金の支払者が個人であって、給与等の支払者でないとき、または常時2人以下の家事使用人にのみ給与を支払っているときは、ホステス等への報酬を除き源泉徴収をしなくてよい(所得税法204条2項2号、183条、184条)。
ここが最も知られていない核心です。「従業員を雇っていない一人親方・フリーランス」「人を雇わず自分だけで回している個人事業主」は、原稿料やデザイン料、弁護士・税理士報酬を個人に払っても源泉徴収義務を負いません。法人なら従業員ゼロでも義務があります。個人でも、従業員や青色専従者に給与を払っていれば1人でも義務が生じます。
国税庁のタックスアンサーも同旨を明記しています。「その報酬・料金等の支払者が個人であって、その個人が給与等の支払者でないとき……は、ホステス等に報酬・料金等を支払う場合を除き、源泉徴収する必要はありません」(タックスアンサー No.2793、同 No.2502)。「給与の支払がある個人は、納付すべき税額がなくても源泉徴収しなければならない」と念押しされている裏返しでもあります。
| あなた(支払う側) | 個人への報酬・料金の支払 |
|---|---|
| 法人(従業員ゼロでも) | 義務あり |
| 給与を払っている個人事業主(従業員・青色専従者が1人でも) | 義務あり |
| 給与を払っていない個人事業主(常時2人以下の家事使用人のみに払う場合を含む) | 義務なし(ホステス等を除く) |
| 個人的な支払(会社員が自費で税理士に頼む等) | 義務なし |
判定は「報酬を支払う日」の現況で見ます(所得税基本通達204-5)。年初に従業員がいたかどうかではなく、その支払時点で給与の支払者かどうかで決まります。
対象は限定列挙。該当しなければ引かなくてよい
源泉徴収が必要な報酬・料金は、所得税法204条1項で限定列挙されています。ここに無いものは、個人に払っても引く必要がありません。
| 区分(所法204条1項) | 該当する主な報酬・料金 | 該当しない主な対価 |
|---|---|---|
| 1号 | 原稿料、さし絵料、作曲料、レコード吹込み料、デザイン料、放送謝金、著作権・工業所有権の使用料、講演料、技芸・知識の教授料など | 試験問題の出題料、答案の採点料、ラジオ・テレビのモニター謝礼(通達で非該当として例示) |
| 2号 | 弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士等の業務に関する報酬・料金 | —(士業の業務に付随するものは含まれる) |
| 3号 | 社会保険診療報酬支払基金から支払われる診療報酬 | — |
| 4号 | プロ野球選手、プロサッカー選手、モデル、外交員、集金人、検針人等の報酬・料金 | — |
| 5号 | 芸能(音楽・舞踊・漫才等)、ラジオ・テレビ放送の出演・演出・企画の報酬、芸能プロダクションを営む個人への報酬 | — |
| 6号 | バー・キャバレー等のホステス、バンケットホステス・コンパニオン等の報酬 | —(支払者が個人でも義務あり) |
| 7号 | 使用人を雇うための支度金などの契約金 | — |
| 8号 | 広告宣伝のための賞金、馬主が受ける競馬の賞金 | 懸賞応募作品の入選賞金等で1回50,000円以下のもの(源泉徴収不要の特例) |
小規模事業者が迷いやすい境界は次のとおりです。
- Web制作・システム開発・運送・清掃は原則非該当。請負の対価で8種類に含まれないため、原稿料・デザイン料に当たる部分がなければ源泉徴収は不要です。
- 制作にデザインが含まれる場合。ネオンサインや広告塔等のデザインと施工を一括で請け負い対価を一括で支払うときは、デザイン部分と施工部分を区分し、デザイン部分のみ源泉徴収します。デザイン部分が極めて少額と認められるときは省略して差し支えないとされています(所得税基本通達204-8)。一括請求だからと全額を対象にしてはいけません。
- 名目は問いません。謝礼、研究費、取材費、材料費、車賃、記念品代、酒こう料などの名目でも、実態が上の報酬・料金に当たれば対象です(同204-2)。一方、講演等の役務で交通機関やホテルへ支払者が直接払い、通常必要な範囲内の旅費・宿泊費は含めなくてよいとされています(同204-4)。
- 法人に払う場合は原則不要。内国法人への報酬・料金で源泉徴収が必要なのは馬主に支払う競馬の賞金のみです(タックスアンサー No.2792)。税理士法人・弁護士法人への報酬は引きません。個人の税理士・弁護士への報酬は引きます(同 No.2798)。
判断に迷ったら「誰に」「何の対価として」払うかを言葉にしてください。「個人のライターに、記事の原稿料として払う」なら1号で該当。「法人である制作会社に、Webサイト一式の請負代金として払う」なら非該当。「自分の従業員に、講演の謝礼として払う」なら給与所得として別に源泉徴収します(所法204条2項1号)。
請求書に源泉税額の記載が無くても、義務は消えない
相手の請求書に「源泉所得税 △△円」と書いてあっても無くても、支払う側の義務は変わりません。源泉徴収は法律が支払者に課した義務だからです。書かれていないことを理由に全額を払っても、義務を果たしたことにはなりません。
実務では請求書に源泉税額を書いてもらうと検算しやすくなりますが、書いてもらえなくてもこちらで計算して差し引き、翌月10日までに納付する必要があります。逆に義務がない個人事業主が「請求書に書いてあったから」と引くと、相手への支払が不足し、預かった税の処理という余計な問題が生じます。
消費税を明確に区分してあれば、税抜の額で計算してよい
報酬・料金の額に消費税等の額が含まれている場合、原則は税込金額が源泉徴収の対象です。ただし例外があります。
請求書等で報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されているときは、その報酬・料金等の額のみを対象として差し支えないとされています(平成元年1月30日付 直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」3、最終改正 平成26年課法9-1。タックスアンサー No.6929、No.2792、No.2795、No.2798、No.2801も同旨)。
| 請求書の書き方 | 源泉徴収の対象 |
|---|---|
| 報酬 110,000円(うち消費税10,000円を含む、内訳不明) | 110,000円で計算 |
| 報酬 100,000円 消費税 10,000円 合計110,000円 と明記 | 100,000円で計算 |
この「請求書等」は必ずしも適格請求書(インボイス)である必要はありません。適格請求書発行事業者以外が発行した請求書でも、区分されていれば税抜で計算して差し支えないとされています(令和3年12月9日付 課法・個課 共同通達「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」)。
税率は10.21%、100万円を超える部分は20.42%
源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の額は、支払金額(消費税の扱いを調整した後の額)に対し次のとおり計算します(所得税法205条、復興財確法28条、タックスアンサー No.2798、No.2801)。復興特別所得税(所得税額の2.1%)を含んだ税率です。
| 同一人に対し1回に支払う金額 | 税額 |
|---|---|
| 100万円以下 | 支払金額 × 10.21% |
| 100万円超 | (支払金額 − 100万円)× 20.42% + 102,100円 |
100万円ちょうどなら102,100円(100万円 × 10.21%)です。150万円なら(50万円 × 20.42%)+ 102,100円 = 204,200円です(タックスアンサー No.2798の例)。
司法書士等だけ計算が違います。司法書士、土地家屋調査士、海事代理士は、同一人に対し1回に支払う金額から1万円を差し引いた残額に10.21%を掛けます(タックスアンサー No.2801)。5万円なら(5万円 − 1万円)× 10.21% = 4,084円です。
- 1円未満の端数は切り捨てます。
- 「1回に支払う金額」は原則1回の支払ごとの金額で判定します。分割して払えば分割ごと、1回で払えばその全額で判定します。
引き忘れたら何が起きるか — 納付義務は支払った側にある
源泉徴収し忘れて全額を相手に払っても、国に対する納付義務は支払った側(あなた)に残ります。相手から後で返してもらえるかは当事者間の話で、税務署への義務は消えません。相手が確定申告で精算するから自分は払わなくてよい、という理屈は通りません。
納付が遅れると次の負担が生じます。
- 不納付加算税 — 法定納期限(支払った月の翌月10日。納期の特例の承認を受けていれば年2回)までに完納しなかったときに課されます。原則10%ですが、告知を受ける前に自主納付したときは5%に軽減されます(国税通則法67条)。法定納期限から1か月以内の自主納付等の要件を満たせば免除される場合もあります(同条3項)。
- 延滞税 — 納期限の翌日から納付日まで、日数に応じて課されます(国税通則法60条)。
「しなかったこと自体」への罰則ではなく、遅れた納付への附帯税です。相手がすでに確定申告で精算していても、義務者側の納付義務が当然に消えるわけではありません。引き忘れに気づいたら、放置せず早めに所轄の税務署に相談してください。
なお、給与の支給人員が常時10人未満の事業者は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出して承認を受けると、給与や退職手当、税理士等の報酬・料金(所法204条1項2号)について年2回(1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日)にまとめて納付できます(所得税法216条・217条)。原稿料やデザイン料など他の報酬・料金は特例の対象外なので、翌月10日が期限のままです。
まとめ — まず「自分は義務者か」から見る
- 給与を払っていない個人事業主は、ホステス等を除き報酬・料金の源泉徴収義務がない(所法204条2項2号)。法人や給与を払っている個人は義務あり
- 対象は8種類の限定列挙。原稿料・デザイン料・講演料・士業報酬は該当。Web制作一式・運送・清掃は原則非該当。デザインと施工が混在する一括請求は区分する
- 請求書に源泉税額の記載が無くても支払者の義務は消えない
- 消費税等の額が請求書で明確に区分されていれば税抜の額で計算してよい(平元直法6-1、令和3年インボイス通達)
- 税率は100万円まで10.21%、超える部分20.42%。司法書士等は「−1万円」してから10.21%
- 引き忘れても納付義務は支払者に残る。遅れると不納付加算税(10%/5%)と延滞税がかかる
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出典
本文中の法令・通達・タックスアンサーは、次の一次情報で確認しています。タックスアンサーの番号と「源泉徴収のあらまし」の頁は版によって動くことがあるため、参照日と版を併記します。
- 所得税法204条1項・2項、183条、184条、205条、216条・217条、220条、復興財確法28条、国税通則法60条・67条 — e-Gov法令検索(2026年9月13日確認)
- 国税庁「源泉徴収のあらまし(令和8年版)」 — 第1「源泉徴収制度について」II 源泉徴収義務者/第5「報酬・料金等の源泉徴収事務」I・III(所法204①②、205、所令320、所基通204-1〜204-10、平元直法6-1)※令和7年9月1日現在の法令に基づく最新版(2025年12月12日公表)で該当箇所を確認。令和6年版からの記載に実質的な変更なし
- タックスアンサー No.2792「源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」(2026年4月1日現在)
- タックスアンサー No.2793「報酬・料金等の源泉徴収義務者」(2026年4月1日現在)— 個人で給与の支払者でない場合の例外、ホステス等の例外
- タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」(2026年4月1日現在)— 1号の範囲、消費税の区分記載の扱い
- タックスアンサー No.2798「弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」(2026年4月1日現在)— 2号の範囲、税率 10.21%/20.42%、150万円の計算例、法人の扱い
- タックスアンサー No.2801「司法書士等に支払う報酬・料金」(2026年4月1日現在)— 1万円控除後の10.21%、消費税の区分記載
- タックスアンサー No.6929「消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税」(2025年4月1日現在)— 税込が原則、区分記載があれば税抜で可
- タックスアンサー No.2502「源泉徴収義務者とは」(2026年4月1日現在)
- 所得税基本通達204-2、204-4、204-5、204-6〜204-10(国税庁 法令解釈通達)— 名目の如何を問わない扱い、旅費の直接払いの除外、判定時期、原稿・デザイン等の例示、デザインと施工の一括払いの区分
- 平成元年1月30日付 直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」3(最終改正 平成26年課法9-1)
- 令和3年12月9日付 国税庁「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」 — 区分記載があれば適格請求書でなくても税抜で可
この記事は制度の一般的な説明であり、個別の取引の判断を行うものではありません。自社の取り扱いについては、必ず顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。法令・通達・タックスアンサーは改訂されることがあり、本記事は2026年9月13日時点で確認した内容に基づいています。その後の改正を反映していない場合がありますので、実際の判断にあたっては国税庁が公表している最新版をご確認ください。
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