2026年9月13日 ・ インボイス

振込手数料を引かれて入金された。これは値引きか、手数料か

請求書は税込11,000円で出したのに、口座に入ったのは10,560円。差額440円は振込手数料らしい。こういうとき、差額を売上値引にするのか、支払手数料にするのかで、消費税の扱いが変わります。先に見るべきなのは、銀行の明細ではなく取引先との合意です。

原則は、振り込む側の負担

民法485条は、弁済の費用について別段の意思表示がないときは、債務者の負担と定めています。代金を支払う債務者が、支払いを完了するための通常の費用を負担する、という原則です。

したがって、請求書に「振込手数料はご負担ください」と書くのは、特別な値引条件を付けているというより、原則どおりの負担者を確認している記載です。ただし、請求書の一文だけで常に決まるとは限りません。契約書、取引基本契約、発注書、これまでの継続した合意も確認します。

契約で、売手負担にすることはできる

民法485条の「別段の意思表示」があれば、当事者間で別の負担を決められます。「振込手数料は売手負担」「請求額から手数料相当額を差し引いて支払う」と合意しているなら、売手が差額を負担する取引として処理できます。

逆に、売手負担の合意がないのに一方的に差し引かれていたら、ただちに値引として記帳する必要はありません。まず相手に、差し引きの根拠と金額を確認します。請求どおりの全額を受け取る権利が残っているケースでは、売掛金の消込み不足として扱うこともあります。

取適法(旧・下請法)の対象となる取引は別途注意が必要です。国税庁の現行Q&A問29は、取適法の対象取引では、当事者間の合意があっても振込手数料を売手に負担させ、代金から差し引くことは禁止されると案内しています。該当しそうなら、税務処理だけでなく公正取引委員会や所管窓口の情報も確認してください。

引かれて入金されたときの2つの処理

売手負担の合意がある場合、国税庁は主に次の2つの考え方を示しています。どちらを採るかは、取引の実態と契約に合わせ、同じ種類の取引では継続して処理します。

処理取引の見方消費税の扱い
売上値引
(売上対価の返還等)
請求した売上の一部を減額した売上を減額し、売上値引の税率は元の売上に合わせる。標準税率の売上なら10%、軽減税率の売上なら8%
支払手数料
(または立替金)
買手から決済上の役務提供を受けた、または買手が売手のために銀行手数料を立替払いした課税仕入として扱うには、買手の適格請求書(または確認済みの仕入明細書等)や、立替の場合の金融機関の適格請求書・立替金精算書等の保存が必要

たとえば税込11,000円の10%課税売上について440円を売上値引にするなら、440円は税抜400円と消費税40円に分かれます。売上10,000円・消費税1,000円だったものが、9,600円・960円になる処理です。一方、支払手数料として処理するなら、売上11,000円はそのままにし、440円を別の課税仕入として考えます。後者は「手数料を引かれたから経費」と機械的に決めるのではなく、誰からどんな役務の提供を受けたのかを記録できることが前提です。

国税庁は、会計上は「支払手数料」としつつ、消費税法上は売上げに係る対価の返還等として処理することも可能としています。その場合は、通常の支払手数料と区別できる勘定科目や補助コードを使い、元の売上に応じた税率と「売上げに係る対価の返還等」であることが帳簿から分かるようにします。

売上値引なら、返還インボイスは必要か

売上値引は、消費税法上の「売上げに係る対価の返還等」です。原則として、適格請求書発行事業者が値引をしたときは、相手に適格返還請求書を交付します。

ただし、返還等の税込価額が1万円未満なら、適格返還請求書の交付義務は免除されます。振込手数料相当額は通常1万円未満なので、多くのケースでは返還インボイスを別に発行する必要はありません。この免除は令和5年度税制改正による措置で、適用期限や対象者に特段の制限がない恒久措置です。

1万円未満かどうかは、税率ごとに細かく分けて足すのではなく、返還した金額や値引対象となる請求・債権の単位で判定します。1つの請求から440円を差し引いた、というケースなら440円で判定します。

どちらで処理すべきか

迷ったら、次の順番で確認します。

実務上は、取引先ごとに「振込手数料は買手負担/売手負担」「差引時の勘定科目」「証憑の受け渡し」を取引条件として残しておくと、月末の入金消込みで迷いません。請求書に一言書くだけでなく、契約や発注条件と矛盾しない状態にしておくことが大切です。

出典

本文の法令・国税庁資料は、次の一次情報を確認しています。国税庁Q&Aの問番号は改訂で動くことがあるため、版を明記します。

SmallWorks の見積・請求 MCP は、請求書のPDF発行と、記載事項6要件・登録番号の形式検査を行います。振込手数料の負担条件や、売上値引・支払手数料の判断は、この記事の確認順に沿って取引の実態を整理してください。

この記事は制度の一般的な説明であり、個別の取引の判断を行うものではありません。自社の取り扱いについては、必ず顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。国税庁のQ&Aは改訂されることがあるため、実際の処理にあたっては公表されている最新版をご確認ください。

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