2026年9月13日 ・ フリーランス新法
一人で受けて、一人に出した時点で「発注事業者」になる
個人で仕事を受注し、その一部を別の個人に外注する。こうしたやり方は、個人事業主の間で日常的に起きています。しかし、2024年11月1日に施行された法律により、この時点で「発注事業者」として法的な義務が発生します。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。通称、フリーランス・事業者間取引適正化等法です。
法律の正式名称と施行日
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)。2023年5月12日に公布され、2024年11月1日に施行されました。略称は「フリーランス・事業者間取引適正化等法」です。
この法律は、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事できる環境を整備するため、発注事業者に対して取引条件の明示義務や報酬の支払期日、禁止行為などを定めています。
取適法と決定的に違う点:規模要件がない
多くの事業者が「取適法(中小受託取引適正化法、旧・下請法)」と混同しますが、決定的な違いがあります。資本金や従業員数の規模要件がないということです。
取適法が適用されるのは、委託事業者が一定の規模を超える場合だけです。製造委託・修理委託・特定運送委託などでは資本金3億円超(または資本金1千万円超3億円以下、あるいは従業員300人超)、プログラム作成や運送等を除く情報成果物作成委託・役務提供委託では資本金5千万円超(または資本金1千万円超5千万円以下、あるいは従業員100人超)という区分で、資本金基準と従業員基準のいずれかに該当すれば対象になります。
つまり資本金1千万円以下で従業員もいない個人事業主は、取適法では委託事業者になりません。しかしフリーランス新法にはこの線引きがありません。従業員を使用していない個人に業務委託をすれば、発注側が個人事業主でも規律の対象になります。
| 比較項目 | 取適法(旧・下請法) | フリーランス新法 |
|---|---|---|
| 規模要件 | あり。資本金3億円超・5千万円超などの区分、または従業員300人超・100人超 | なし(個人でも対象) |
| 相手方の要件 | 委託事業者の区分に応じ、資本金3億円以下・5千万円以下・1千万円以下など | 従業員を使用しない個人または法人 |
| 対象となる業務 | 製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託 | 物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供 |
| 建設工事 | 除外(改正後も維持) | 含む |
| 所管 | 公正取引委員会 | 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省 |
誰が誰に適用されるか
法律上の用語と実態の対応を整理します。
| 法律上の用語 | 実態 | 要件 |
|---|---|---|
| 特定受託事業者 | フリーランス(受注側) | 従業員を使用しない個人、または代表者以外の役員がおらず従業員を使用しない法人 |
| 業務委託事業者 | 発注側(全般) | フリーランスに業務委託をする事業者すべて |
| 特定業務委託事業者 | 発注側(従業員あり) | 従業員を使用する発注事業者 |
ポイントは、「従業員を使用しているか否か」で義務の重さが変わることです。従業員を使用していない事業者がフリーランスに業務委託した場合は「業務委託事業者」として取引条件の明示義務が課されます。従業員を使用している場合は「特定業務委託事業者」として、さらに重い義務が加わります。
「従業員」の定義に注意:1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することです。短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含みません。事業に同居親族のみを使用している場合も該当しません。
取引条件の明示義務(第3条)
フリーランスに業務委託をした場合、直ちに書面又は電磁的方法(メール・チャットなど)で取引条件を明示しなければなりません。口頭で伝えることは認められません。
明示すべき事項は次のとおりです:
- ①業務委託事業者及び特定受託事業者の名称
- ②業務委託をした日
- ③給付・役務の内容
- ④給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日
- ⑤給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
- ⑥検査完了期日(検査をする場合のみ)
- ⑦報酬の額および支払期日
- ⑧報酬の支払方法に関すること(金銭以外の方法で支払う場合のみ)
この義務はフリーランス同士の取引にも適用されます。個人事業主が別の個人事業主に業務を委託する場合も、書面または電磁的方法で条件を明示する必要があります。
支払期日は受領日から60日以内(第4条)
特定業務委託事業者は、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、その期日までに支払わなければなりません。検査をするかどうかは問いません。
支払期日を定めなかった場合や、60日を超えて定めた場合は、受領日から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます。
再委託の場合は別ルール
元委託者から受けた業務を再委託する場合、次の3つを明示したときは例外が認められます:
- ①再委託である旨
- ②元委託者の名称
- ③元委託業務の対価の支払期日
このとき、再委託に係る報酬の支払期日は元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができます。
従業員を使用している発注事業者の重い義務
特定業務委託事業者(従業員を使用する発注事業者)には、さらに重い義務と禁止行為が課されます。
7つの禁止行為(第5条)
フリーランスに対して1か月以上の業務委託をしている場合、次の7つの行為が禁止されています。たとえフリーランスの了解を得ていたとしても違反になります。
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| ①受領拒否 | フリーランスに責任がないのに、給付の受領を拒むこと |
| ②報酬の減額 | フリーランスに責任がないのに、報酬を減額すること |
| ③返品 | フリーランスに責任がないのに、給付に係る物を引き取らせること |
| ④買いたたき | 通常相場に比べ著しく低い報酬を不当に定めること |
| ⑤購入・利用強制 | 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること |
| ⑥不当な利益の提供要請 | 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること |
| ⑦不当なやり直し | フリーランスに責任がないのに、給付内容を変更させたりやり直させたりすること |
募集情報の的確表示義務(第12条)
広告などによりフリーランスを募集する際は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
育児介護等への配慮義務(第13条)
6か月以上の業務委託について、フリーランスからの申出に応じて、育児や介護と業務を両立できるよう必要な配慮をしなければなりません。6か月未満の業務委託についても、配慮するよう努めなければなりません。
ハラスメント対策の体制整備義務(第14条)
ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じなければなりません。
中途解除の事前予告義務(第16条)
6か月以上の業務委託について、契約を中途解除する場合や更新しない場合は、解除日または契約満了日から30日前までにフリーランスに予告しなければなりません。フリーランスから理由の開示を請求された場合は、遅滞なく開示する必要があります。
建設工事はこの法律の対象になるか
取適法は建設工事を除外していますが、フリーランス新法は異なります。公正取引委員会の解釈ガイドラインによれば、フリーランス新法の「業務委託」には建設工事も含まれます。
具体的には、「建設会社から住宅建設の業務の一部を受託する一人親方」が特定受託事業者に該当するとされています。ただし、建設工事に従事する者が労働基準法上の「労働者」に該当する場合は、フリーランス新法ではなく労働関係法令が適用されます。
建設業に従事する一人親方が、元請けから業務委託を受けている場合、フリーランス新法上の特定受託事業者に該当し得ます。元請けが従業員を使用している事業者であれば、特定業務委託事業者として義務を負います。ただし、実態が労働基準法上の「労働者」に該当する場合は、フリーランス新法ではなく労働関係法令が適用されます。
違反した場合はどうなるのか
公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます。命令違反及び検査拒否等には50万円以下の罰金に処せられます。法人には両罰規定もあります。
また、公正取引委員会は勧告を行った場合も事業者名を公表します。自発的に違反を申出た場合は、勧告を行わない取扱いが認められる場合があります。
まとめ
- 正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。2024年11月1日施行
- 取適法(旧・下請法)と違い資本金・従業員数の規模要件がない。個人事業主が個人に業務委託しても対象になる
- 取引条件は書面又は電磁的方法(メール・チャット)で直ちに明示する
- 支払期日は受領日から60日以内。再委託の場合は元委託支払期日から30日以内
- 従業員を使用している発注事業者は、7つの禁止行為、募集情報の的確表示、育児介護への配慮、ハラスメント対策、中途解除の予告の重い義務が加わる
- 建設工事は取適法と異なりこの法律の「業務委託」に含まれる
ここまでは発注する側の義務の話です。取引条件の明示義務は、発注した側が発注の時点で負うものなので、受注側が出す請求書とは主体も時点も違います。受ける側として見積書や請求書を出す場面であれば、SmallWorks の見積・請求 MCP が記載事項6要件と登録番号の形式を検査したうえでPDFを作ります。お使いの Claude や ChatGPT に接続して使えます。
出典
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」条文(e-Gov法令検索)
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法に関するQ&A」
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会)
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット」
- 厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」
- 内閣官房「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律等に係る取組について」
- 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」(令和8年1月1日施行、旧・下請法から改称)
- 公正取引委員会・中小企業庁「取適法リーフレット No.01」(令和7年8月)— 取適法の適用対象取引と、資本金基準・従業員基準の区分。本文の規模要件の数値はこの資料によります
この記事は制度の一般的な説明です。個別の取引の判断については、顧問弁護士または所管の官庁(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)にご確認ください。法律の詳細は一次情報となる条文および上記の公表資料をご参照ください。
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