2026年8月31日 ・ 商習慣と法令
請求書に社印は要らない。銀行振込に領収書も要らない
どちらも「そういうものだ」と思われている慣行ですが、法令上の根拠はありません。やってはいけないという話ではなく、義務だと思い込んで手間とコストを払っているなら、それは見直せる、という話です。
請求書の押印に、法的な義務はない
適格請求書の記載事項は消費税法で6つ定められています。発行者の名称と登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の額と適用税率、税率ごとに区分した消費税額等、そして書類の交付を受ける事業者の名称です。
押印はここに含まれていません。請求書一般に押印を義務づける法令もありません。
押印が無くても請求書として有効で、受け取った側の仕入税額控除も妨げません。社印が無いから経理で受け取ってもらえない、ということが起きるとすれば、それは法令ではなく相手方の社内ルールの話です。
では、なぜ押されているのか
商習慣として定着しているからです。改ざんされていないことの担保、あるいは正式な発行物であることの合図として機能してきました。取引先が求めるなら応じればよく、求められていないなら、押印のために印刷して押してスキャンする工程は省けます。
領収書の交付義務は「請求されたとき」に生じる
民法486条は、弁済をする者は、弁済と引き換えに受取証書の交付を請求することができると定めています。裏を返せば、請求されて初めて交付義務が生じます。支払いがあったら自動的に領収書を出さなければならない、という規定ではありません。
そして銀行振込の場合、振込明細書が支払いの事実を証明します。だから実務上も、別途の領収書は通常不要とされています。求められてもいないのに発行する慣行には、法令上の根拠がありません。
不要な紙の領収書は、印紙代の持ち出しになる
金銭の受取書は印紙税法上の第17号文書です。記載金額5万円未満は非課税ですが、5万円以上になると収入印紙が必要になります(記載金額100万円以下なら200円)。
一方、PDFをメールで送るなど電子的に交付する場合、印紙は不要です。課税文書の「作成・交付」に当たらないためです。
つまり、発行義務のない領収書を紙で出していると、義務が無いところに印紙代を払っていることになります。1枚200円でも、年間の枚数を掛ければ無視できる額ではありません。どうしても発行するなら、電子で渡すほうが理にかなっています。
相手が求めてきたら、断る理由はありません。この記事は「発行するな」ではなく、「義務ではないと知ったうえで判断する」ためのものです。義務だと思って続けている作業と、相手のために続ける作業は、同じ作業でも意味が違います。
整理すると
| よくある思い込み | 実際 |
|---|---|
| 請求書には社印が要る | 法的義務なし。6要件にも含まれない |
| 押印が無いと仕入税額控除できない | 妨げない |
| 入金があったら領収書を出す義務がある | 請求されたときに生じる(民法486条) |
| 振込でも領収書が要る | 振込明細が証明になるため通常不要 |
| 領収書は紙で出すもの | 電子交付なら印紙が不要 |
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この記事は制度の一般的な説明です。個別の取引や、取引先との取り決めがある場合の判断については、顧問税理士等にご確認ください。印紙税の取扱いは国税庁の公表資料が一次情報になります。
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